奥田農園が出荷した苗のその後を探るべく、服部農園の服部さんに話を伺った。服部農園は山梨県甲府市に位置し、紅ほっぺと章姫の2種類のいちごを生産している。そのうち紅ほっぺの多くはシャトレーゼ(全国に450店舗を構える洋菓子の製造販売店)に出荷を行っている。素材選びに注力するシャトレーゼでは主要な食材を信頼できる契約農場から仕入れており、服部農園はそのひとつである。残りの紅ほっぺと章姫はいちご狩り用に生産を行っている。甘みが強くて柔らかい章姫、味が濃くて酸味があり、いちご本来の甘酸っぱさを楽しめる紅ほっぺ。この2種の食べ比べが可能だ。
今年(2016年3月現在)は暖冬で、例年ほどの寒暖差もなく、いちごの成育にとって好ましいとは言えないシーズンであった。周囲のいちご農家の中には花芽が育たず思う様に収穫できていないところもあるという。それに対し服部農園のいちごは鈴なり状態である。果実の大きさも申し分がない。周囲のいちご農家が訪れ「おー、服部さんのところはたくさん出ているね!」という言葉をもらったほどである。
奥田農園が生産する苗の強みは、それが育つ環境によってもたらされる。いちごの苗の花芽分化には主に2つの条件が必要だ。ひとつは短日(1日の日照時間が11.5時間以下)であること、もうひとつは夜間の温度が18℃以下になる日が30日以上続くことである。ひとつめの条件に関しては遮光カーテンの使用によって満たせる。しかし夜温18℃以下という条件を夏の時期に満たすことは非常に難しい。愛知県や埼玉県はもちろん、長野県内でさえ夏にこの条件を満たす地域は限られる。しかし奥田農園が位置しているのは八ヶ岳の麓1,030mの高原地帯。真夏でも窓を開けたまま寝れば風邪をひくほどに夜温が下がる地域である。この気候特性によって、他の地域では10月頃から可能になる花芽の分化が、奥田農園では真夏に、しかも自然分化で可能なのだ。つまり他の苗よりも花芽が立ち上がるのが2ヶ月間程度早いということである。このアドバンテージによって12月のシーズン初めから多くのいちごがなり、さらに昨秋のように1日の寒暖差が少ない場合でも影響を受けず安定した品質の苗を生産できるのである。
取材終了後に「伝え忘れたことがありました。」と、わざわざ連絡をくださった服部さん。今期、例年よりも早い時期に定植を行う予定を立てた服部農園。その予定に合わせて奥田農園は例年よりも早いサイクルでランナーからの切り離し、挿苗を行って苗を育て、納品の希望時期に間に合わせたという。また、納品後も服部農園を気にかけて連絡を取ってくれ、アフターサービスも素晴らしかったという。その対応に「奥田農園のサービス品質へのこだわりとを苗への愛情を感じる」と服部さんは話してくれた。
取材/記事: ペンギンデザイン
– 取材協力 –
服部農園